関わる全ての人の想いが繋がりました。

利用者様とのかかわり方

ハートテラスにご入居頂き、今年で5年目となるご利用者様がいらっしゃいます。基礎疾患から誤嚥性肺炎を繰り返し、胃瘻からのお食事はトロミを強くつけなければならず、適宜吸引も必要なお方です。

毎年、年末年始はご自宅で一緒に過ごしたいと、ご家族様も熱心に介護に必要な技術や知識を施設のスタッフから学び、年末年始はご自宅でお過ごし頂いておりましたが、この2年は残念ながらご自宅には戻れておりません。

一昨年は新型コロナウイルスにより外泊が叶わず、昨年は腎盂腎炎にて病院に入院され体調が安定していないため、外泊を断念されました。入院後に誤嚥性肺炎を併発し、病院の先生からは胃ろうからの栄養再開が難しく高齢でもあるため、今後は末梢点滴、末梢点滴が不可の場合は皮下点滴を行い看取りの方向で、、とのお話がすすみ、ご家族様も悲しいお気持ちはありつつも、ご本人にとって辛い事、苦しい事は避けたいという思いで看取り方向を承諾されました。末梢点滴が不可となり、とうとう皮下点滴へ変更となってしまいました。”最期はハートテラスで”という強い想いをお持ち下さり、皮下点滴に変更となって3日後に退院されハートテラスにお戻りになられました。

ハートテラスに戻ってきて下さる事をスタッフ一同とても楽しみにしておりました。「また会いたい!」というスタッフの気持ちがとても強く、退院が決まった時にはみんなで大喜びしました。

退院日、ご家族様、ハートテラスの主治医、ケアマネージャー、看護師、介護士にて話し合いの場を持ちました。”このまま看取り方向で皮下点滴を継続する”と言う事を、話し合いの場に参加した誰もが心の中では受け入れていませんでした。

主治医より、中心静脈栄養を挿入しもう一度胃ろうからの栄養再開に向けて少しずつトライしてみるのはどうかという提案がなされ、ご家族様はハートテラスを信頼下さり、何もしないで見守るよりも出来る事があるならお願いしたいというお気持ち、もし栄養再開が困難であってもお別れまでにもう少しだけ家族みんなが受け入れる時間が欲しいというお気持ちを話され、こちらの提案を承諾されました。

退院されてすぐにお身体を拝見すると、やはり栄養が入っておらず1日の水分量も今までよりもかなり少ないため以前に比べて痩せてしまっておりました。呼吸状態は安定されておりましたが、一番気がかりなのはお腹の動きがほとんど見られない事でした。主治医から栄養をトライする話が上がりご家族様も了解されたものの、このままでは胃ろうから注入しても身体が受け入れられず、吐いてしまう可能性が高いと思われました。吐いてしまうとまた誤嚥性肺炎を発症するリスクが高まるため、主治医へ報告しお腹を動かす薬の検討、栄養量について検討しました。栄養再開を少しずつトライしていく為には中心静脈栄養による管理が必須であり、まずは中心静脈栄養が開始される事を願いました。

次の日、中心静脈栄養が無事に挿入され摂取エネルギーの高い点滴の開始が叶いました。第一段階はクリアです!その後点滴内にお腹の薬を入れつつ、胃ろうからお白湯の注入を開始しました。

3日目、お腹の動きを毎日確認しながら少量ずつお白湯に栄養をまぜて注入し始めました。お腹の張りが強く排ガスの誘導が必要でしたが、嘔吐はなく経過しました。痰の増量もなく痰の性状の悪化もありません。

日毎に栄養量をアップしていきたいのですが、糖尿病もあり、急なアップは身体がついて来れないと予測し、最初に検討していた栄養アップメニューよりも更に期間を伸ばし、およそ2ヶ月程度かけて目標の摂取カロリーと水分量に達するメニューを看護師間で検討、主治医と相談しながら進めました。糖尿病や心疾患の懸念から、1日の水分量を合わせるため、胃ろうからの注入量がアップすれば中心静脈栄養の点滴量を減量すること、血糖値を1日3回測定して点内のインスリン量の増減、血糖降下剤の服用の調整、排便やお腹の動きに応じた対処、毎日毎日スタッフ間で情報を共有し、一番良い選択を検討し合いながら年末年始を迎えました。

年が明け、順調な経過をたどり一度も発熱する事なく嘔吐もなく過ごして頂く事ができました。そして、とうとう1月中旬、無事に目標であった栄養量、水分量に達する事ができました! 胃ろうからの栄養のみでお過ごし頂く事ができる様になり、晴れて中心静脈栄養を抜去するに至りました。皆が望んだ入院以前の状態にほぼ戻ることが出来たのです!

病院に入院中、看取りの方向となり、皮下点滴で退院されてからここまで約2ヶ月間、長い道のりでしたが、ご利用者様に関わる全ての人の想いが繋がり、今に至ります。

S様

ご家族様の想い、私たちスタッフの想いに懸命に応えて下さり、ありがとうございます。私たちスタッフも今回のトライにより、更に気持ちが引き締まり、また団結する事ができました。ご家族様との信頼関係をより深める事が出来た事にも感謝致します。

これからもご利用頂く全ての方に対し、温かい眼差しでハートあるケアに努めて参ります。沢山の人生ドラマの1ページにハートテラスが加わりますことを心より感謝申し上げます。

何度も検討を重ねた栄養メニューと点滴管理
毎日3回血糖を測定していました。