ハートテラスを選んで下さり、ありがとうございました。

利用者様とのかかわり方

先日ハートテラスにご入居されて6年2ヶ月が経過された方を施設で看取らせて頂きました。

平成27.12.21、H様は車椅子をご自身で操作されてご入居されました。にっこり笑顔で「うん、うん」と大体の事にはうなづかれ、洋楽が好きでスポーツ観戦が大好きなお方でした。毎朝車椅子に乗って施設の玄関ポストに届くスポーツ新聞を取りに行く事から1日がスタートし、訪問リハビリを受けていらっしゃったため、時々リハビリの先生と外出されたり、右半身麻痺のため左手で書字訓練を行なったり、看護師によるベッド上リハビリもされていました。

咽頭がんや脳血管疾患を患われてハートテラスにご入居されましたが、当初は年齢も若くまだまだハートテラスで長く生活して頂けると感じていましたし、H様も「病院には行きたくないが出来るだけ長生きしたい」と仰っていました。しかし、病気は確実に少しずつ進行していた様です。体調が悪化し施設での対応が難しくなると病院に行く事を嫌がるH様に対し、「必ずここに戻ってこれるから今だけ病院に行こう」と送り出し何度か入院もされました。退院されハートテラスに戻られるとにっこり笑顔でまた洋楽を聴いたり、テレビをつけたままラジオでスポーツ観戦。スタッフからはどっちかにしてはと言われて苦笑い。そんな日々が続きました。

徐々に体調を崩す頻度が増え、病院で検査をした際に脳に転移の可能性を指摘されました。それ以上の精査や治療はH様の負担を考慮して行わないこととなり、私たちはその時その時に応じてH様に必要なケアについてスタッフ間で話し合い、ご家族様にもご相談させて頂きながら、H様にとって最善の方法は何かという目線で目の前にある数々の問題の選択をさせて頂きました。

昨年1月には脳転移によるものが原因か段々とスポーツ新聞は読まれなくなり、ボーッと過ごされることが増え、今まで定期的に咽頭がんのフォローのために受診していましたが、ご家族様と相談のもとH様の負担を考え定期受診は断念する事となりました。意識レベルは徐々に低下され、秋にはご自分の意思で手や足を動かす事が少なくなっていきました。

主治医からは、そろそろターミナル(終末期)の時期であるとご家族様に伝えられ、私たちスタッフのターミナルケアについて説明させて頂く事となり、ご家族様は覚悟を決められました。

ご家族様に施設へのご要望を伺うと、いつも聴いていた洋楽を一日一回は聴かせてあげてほしい。沢山声をかけて今まで通り、「大丈夫だからね」と伝えてあげてほしい。という事でした。

毎日「今日のCDはどれがいいですか?」と声をかけながら洋楽、時には持参されたCDケースの中に入っているJPOPなども掛けました。お声掛けにはうなづく様に瞬きをされ、私たちとの意思疎通の手段は徐々に瞬きのみとなりましたが最期までしっかりと瞬きで合図して下さいました。呼吸状態が徐々に悪くなり、ターミナル期の宣告から約3ヶ月後、息を引き取られました。

ご入居当初からお世話をさせて頂いているスタッフもそうでないスタッフもお部屋の壁に貼ってある毎年のお誕生日カードのお写真を見て、H様のハートテラスでの暮らしぶりを知り、スタッフ皆が温かい愛情でH様の生活のお手伝いをさせて頂きました。今もまだお部屋を覗けばH様が暮らしておられるような気がしてなりません。

「ここで生活した6年は人生の中で一番幸せだったんじゃないかと思います。スタッフの皆さんが毎日声をかけて下さり、こんなにも笑顔の写真が沢山あって、私の知る限りではこんな笑顔は見た事がないくらいです。それだけ皆さんの事を信頼し穏やかな日が過ごせた事は感謝しかありません。」ご家族様からはこんな素敵なお言葉を頂戴致しました。

私たちは日々懸命に”ご利用者様の暮らしを支えられる人になりたい”と看護師、介護士ともにプロとしての責務を果たすべく業務に取り組んでいます。ハートテラスは終身をご希望される方が多く、長い年月をハートテラスでお過ごし頂く方もいらっしゃいます。どの方にも家族の様な温かさで接し、どの方にも安心感を持って頂ける様、私たちスタッフはプロとしての責務だけではなく心安らぐ空間が提供出来る事もとても大事な事であると感じています。

H様、6年2ヶ月の間私たちは学ばせて頂く事が沢山ありました。本当にありがとうございました。そして、ハートテラスを選んで下さりありがとうございました。

お部屋からいつも見ておられた景色です。
毎年大好きな高校野球の予想をたてていましたね。